2026年3月、一般社団法人グローバル政策研究機構は、内閣府規制改革推進室に対し、消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害する広告・表示表現を抑制するための具体策を提言しました。

これは、規制改革推進室が実施していた、AIの社会実装において障害となっている規制・制度についての意見募集に応じたものです。

 

(背景:広告・表示を事前審査するためのAIツールの開発)

商品・サービスの品質や内容を、実際のものや競合他社よりも偽って著しく優良に表示することは、景品表示法(景表法)により禁止され、違反行為に対しては消費者庁により課徴金などの行政処分が課せられます(悪質な場合は刑事罰)。ところが、消費者庁に寄せられる景表法違反被疑案(端緒情報)は2020年度からの5年間をみても2倍近くの年間2万件以上に増加しており、この間、景表法の執行を担当する人員・予算はほぼ横ばいであることから、行政処分の執行件数も30~40件程度の横ばいとなっています。

このため、事業者が自ら、消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害する不当表示を抑制する取り組みを強化していく必要があります。昨今、自社の膨大な広告・表示表現について景表法抵触の可能性の有無を自動的に指摘してくれるAIツールが既に一部の事業者で導入されています。このAIツールの普及・活用により、コストを抑えながら社内における事前審査が強化され、景表法違反被疑事案が減少していくことが期待されます。

 

(消費者庁は、景表法違反による全ての処分事例について、その判断根拠を公表すべき)

この事前審査AIツールの精度を向上させるためには、過去の違反事例を通じてどのような場合に景表法違反として処分されるのかを十分に学ばせる必要があります。

景表法違反の処分事案に関する消費者庁の公表資料をみると、消費者庁がなぜその事案を景表法に違反する不当表示と判断したのか、その根拠が明記されています。しかしながら、最近の消費者庁による行政処分例のうち6割弱を占める「不実証広告規制」(広告・表示の効果・性能について客観的な根拠資料を一定期限内に提出できない場合、不当表示とみなして行政処分を下す制度)によるものについては、消費者庁の公表資料ではその処分の判断根拠について「(事業者から提出された)資料は、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものであるとは認められない」と記述されているのみで、その判断根拠が明記されておらず、これをAIが教訓として学んでいくことができません。

事業者が自らの事前審査を通じて景表法違反被疑事案を確実に抑制できるようにするために、消費者庁は景表法違反による全ての処分事例について、その判断根拠を公表すべきだと考えます。

 

(業界自主ルールの運用団体の権限強化による不当表示の差止)

増え続ける景表法被疑事案に行政処分が追いつかない状況に対しては、事業者自身が広告・表示の事前審査を強化することに加えて、不当表示を認識した民間の他の事業者がその不当表示を差し止めることができるようにすることも有効な手段であると考えられます。

現在、「公正競争規約」という国が認定した業界自主ルールに基づいて業界団体(その多くは◯◯公正取引協議会という名称です)が不当表示を防止する仕組みが運用されています。この業界団体はメンバーによる規約違反に対しては警告を発したり違約金を課したりすることができますが、団体に属さないアウトサイダーによる不当表示に対しては直接的な抑止力を有していません。他方、一定の要件を満たした消費者団体(適格消費者団体)は、不当表示を差し止めるよう裁判所に訴える権限(差止請求権)を有していますが、この権限を実際に行使した件数はわずかに止まっています。

そこで、普段の活動を通じて業界の広告・表示を熟知している公正取引協議会等のうち、一定の要件を満たす団体については、適格消費者団体と同様に、アウトサイダーによる不当表示について差止請求権を付与すれば、官による不当表示への対応力不足を補うことができます。

以上の提言が具体化され、不当表示の抑制や対応強化につながることを期待いたします。